2009年09月07日

犬のコロ


09-9-7
私たちの銀河には、一千億の星々があるといい、
それと同じくらいの銀河がこの宇宙には二千億もあるとは、
想像するも実感などできない。気が遠のくばかりだ。
1時間前まで僕は地球にいた。
そして今、136億光年の彼方にあるという宇宙の果てに向かっている。
10数人の見学者とともに床に寝そべり、天空に散らばる星くずを眺めていた。

すぐ隣で女のささやく声がした。
そっと振り向くと、左側40cmのすぐ隣で白い歯と眼がキラッと光っていた。
どこまで広がっているのか、
床の暗がりで女の匂いが星雲のように覆い被さってきた。
その向こう隣には男の気配がある。
「ねぇ・・・ねぇ・・・」ふたりの会話が聴きとれない。
くすくすと遠慮気味に女が笑い、男は沈黙していた。
星くずの天空に女の腕が上がり、
白い指が天の川の方を指すと、そのまま男の方に投げ出されるように倒れて、
その男に絡みついた。
女が動くたびに、その匂いも揺れた。
「最近、ブラック・マターの存在が注目され・・・」
研究者の声がまたした。
まったりとしたその声で、もう皆が催眠にかかってしまったようになっていた。

犬になった僕は、飼い主のテラさんに可愛いがられていた。
いつもの散歩コースなのに、そこを通るたびに、僕はいつも方向を見失ってしまい、
右往左往してはご主人さまを困らせている。
地上30センチほどの高さからは、家並みの遙か向こうにのぞく空とこのコンクリー
トの道しか視界にはない。
犬である僕は、本来なら、飼い主に導かれるままに歩かなければならないのに、僕の
飼い主は、僕に連れられるように後をついて来る。僕が行き先を決められずにためらっ
ていると、彼はニヤニヤして僕を見おろす。僕には行く当てなどないのだ。なのに、
テラさんは辻で迷う僕に声をかけてくる。
「コロちゃん、どっちに行くの」
僕は昨日行った方に目をやった。
僕には、さし当たって行きたいところなどないから、困ったときには空を見上げるよ
うにしていた。空には連れられて行きたくなるような、方角を指し示してくれる風や
光、そして大気の匂いが感じられるのだ。
それが夜空なら、天の川を渡ってみたいものだ。
posted by setos at 14:40| Voice